Whisper

Whisper

OpenAI Whisperは、99言語に対応し、音声書き起こし・翻訳・言語識別をサポートする、高精度なオープンソースASRシステムです。堅牢なAI自動化を実現します。

OpenAI Whisperの概要

Whisperはモデルかシステムか?

OpenAI Whisperは、文脈によってモデルでもあり、システムでもあります。

  • モデルとしては、WhisperはASRタスク専用に設計されたニューラルネットワーク構造を指します。パラメータ数が3,900万から15億5,000万まで、複数サイズのモデルが用意されています。大きいモデルほど精度が高いですが、計算資源も多く必要です。
  • システムとしては、Whisperはモデル構造だけでなく、それを取り巻く全体のインフラやプロセスも含みます。トレーニングデータ、前処理手法、言語識別や翻訳などの多様なタスクの統合も含まれます。

Whisperの主な機能

Whisperの主な役割は、音声をテキスト出力に書き起こすことです。 得意とするのは以下の点です。

  • 多言語音声認識:99言語に対応し、グローバルな用途に最適です。
  • 音声翻訳:対応言語の音声を英語テキストに翻訳可能です。
  • 言語自動識別:事前指定なしで話されている言語を検出します。
  • アクセントや雑音への強さ:多様なデータで学習しており、さまざまなアクセントやノイズ下でも高い精度を発揮します。

OpenAI Whisperはどのように動作するか

トランスフォーマーアーキテクチャ

Whisperの中核はトランスフォーマーアーキテクチャ、特にエンコーダ・デコーダ型のモデルです。トランスフォーマーは、長いシーケンスの情報処理や文脈理解に優れたニューラルネットワークで、2017年の「Attention is All You Need」論文で提案され、NLP分野の基盤となっています。

Whisperの処理フロー:

  1. 音声の前処理:入力音声は30秒ごとに分割され、log-Melスペクトログラムに変換されます。これは音声信号の周波数と強度を時間軸で表現したものです。
  2. エンコーダ:スペクトログラムを処理し、音声の数値的な特徴表現を生成します。
  3. デコーダ:言語モデルを用いて、音声入力に対応するテキストトークン(単語やサブワード)のシーケンスを予測します。
  4. 特殊トークンの利用:言語識別やタイムスタンプ、タスク指示(例:書き起こし・翻訳)などに特殊トークンを活用します。

多言語マルチタスク教師ありデータでの学習

Whisperは68万時間分のWeb上の教師ありデータで大規模に学習されました。その特徴:

  • 多言語データ:約11.7万時間が99言語の音声データで、言語横断での汎用性を高めています。
  • 多様な音響条件:さまざまな分野や環境の音声データが含まれ、アクセント・方言・雑音にも強いモデルとなっています。
  • マルチタスク学習:書き起こし・翻訳・言語識別など複数タスクを同時に学習し、表現の汎用性と性能が向上しています。

主な用途・活用例

書き起こしサービス

  • バーチャル会議やノート作成:教育・医療・報道・法務など各業界向けに自動書き起こしを実現します。
  • コンテンツ制作:ポッドキャスト・動画・ライブ配信のテキスト化でアクセシビリティや検索性を向上。

言語翻訳

  • グローバルコミュニケーション:ある言語の音声を英語テキストに翻訳し、多言語間の会話をサポート。
  • 語学学習ツール:発音や意味理解をサポートします。

AI自動化・チャットボット

  • 音声対応チャットボット:Whisperを組み込むことで音声インタラクションが可能に。
  • AIアシスタント:さまざまな言語の音声コマンドを理解・処理します。

アクセシビリティ強化

  • 字幕生成:動画コンテンツに字幕を追加し、聴覚障がい者をサポート。
  • 支援技術:音声の書き起こし・翻訳によって言語面での支援が可能です。

コールセンター・カスタマーサポート

  • リアルタイム書き起こし:オペレーターに顧客通話のリアルタイムテキストを提供。
  • 感情分析:書き起こしテキストを解析し、顧客の感情を把握して対応を改善。

OpenAI Whisperの利点

多言語対応

99言語に対応し、多様な言語入力を扱える点が特長です。グローバルな用途や国際的なサービスに最適です。

高精度・堅牢性

膨大な教師ありデータで学習されており、書き起こし精度が非常に高いです。アクセントや方言、雑音環境での堅牢性も強みです。

多様なタスクへの対応

書き起こし以外にも下記が可能です。

  • 言語識別:入力された音声の言語を自動検知。
  • 音声翻訳:音声を英語テキストへ翻訳。
  • タイムスタンプ付与:フレーズ単位でのタイムスタンプ出力。

オープンソースでの提供

オープンソースソフトウェアとして公開されているため、

  • カスタマイズ・チューニング:特定タスクや業界向けにモデル調整が可能。
  • アプリへの組み込み:ライセンス制約なく製品やサービスに導入可能。
  • コミュニティ貢献:モデル改良や知見共有など、発展に寄与できます。

制限事項・注意点

計算資源の要件

  • リソース消費大:大型モデルは大容量の計算資源とメモリ(最大10GB VRAM)が必要です。
  • 処理速度:モデルが大きいほど処理速度は遅くなります。

ハルシネーションの発生

  • 誤認識:Whisperは実際に話されていない内容を出力する(ハルシネーション)場合があります。特定言語や音質が悪い場合に起こりやすいです。

非英語対応の限界

  • データバイアス:学習データの多くが英語であり、少数言語では精度が下がる場合があります。
  • 追加学習の必要性:特定言語や方言に最適化するには追加チューニングが推奨されます。

入力の制限

  • 音声長:Whisperは30秒ごとに音声を処理するため、長時間音声の連続書き起こしには工夫が必要です。
  • ファイルサイズ制限:オープンソースモデルでは入力ファイルのサイズや形式に制限がある場合があります。

AI自動化・チャットボット分野でのOpenAI Whisper

ユーザーインタラクションの強化

WhisperをチャットボットやAIアシスタントに組み込むことで、

  • 音声コマンド:テキスト入力ではなく音声で操作可能に。
  • 多言語サポート:多様なユーザーの言語ニーズに対応。
  • アクセシビリティ向上:障がいのある方やテキスト入力が困難な方を支援。

ワークフローの効率化

  • 自動書き起こし:記録作成やメモ取りの工数削減。
  • データ分析:音声内容をテキスト化し、モニタリングやインサイト抽出に活用。

実践例

  • バーチャル会議ボット:オンライン会議に参加し、リアルタイムで議事録を作成。
  • カスタマーサービスボット:音声リクエストに対応し、顧客体験を向上。
  • 教育プラットフォーム:講義の書き起こしや翻訳を提供。

OpenAI Whisperの代替サービス

オープンソースの選択肢

  • Mozilla DeepSpeech:カスタム学習も可能なオープンソースASRエンジン。
  • Kaldi:研究や業界で広く利用される音声認識ツールキット。
  • Wav2vec:Meta AIによる自己教師あり音声処理システム。

商用API

  • Google Cloud Speech-to-Text:多言語対応の音声認識API。
  • Microsoft Azure AI Speech:カスタマイズ可能な音声サービス。
  • AWS Transcribe:語彙のカスタマイズなど多機能なAmazonの音声認識サービス。

専門プロバイダー

  • Gladia:Whisperアーキテクチャを拡張し、追加機能を備えたハイブリッドサービス。
  • AssemblyAI:コンテンツモデレーションなども可能な音声認識API。
  • Deepgram:リアルタイム書き起こしやカスタムモデル学習が可能。

Whisper選定時の考慮事項

精度と速度

  • トレードオフ:大きいモデルほど精度が高いが、リソース消費や処理速度は低下。
  • 実データでの検証:自社用途に沿ったパフォーマンス評価が重要。

音声データ規模

  • スケーラビリティ:大量データ処理のためのハードウェアやインフラ設計が必要。
  • バッチ処理:効率的な大規模データ処理方法の検討。

追加機能

  • 高度な機能:ライブ書き起こしや話者識別などの要否を検討。
  • カスタマイズ:追加実装に必要な工数や技術を評価。

言語対応

  • 対象言語:用途に必要な言語でのパフォーマンスを確認。
  • 追加学習:少数言語には追加チューニングも視野に。

技術力・リソース

  • 技術的スキル:モデル導入・カスタマイズに必要な技術力を確保。
  • インフラ:ハードウェア要件や運用体制を評価。

コスト

  • オープンソースと商用の比較:初期費用の低さと、保守・拡張の長期コストをバランス。
  • 総所有コスト:ハードウェア、開発工数、運用サポート費用も考慮。

PythonでのWhisper活用方法

WhisperはPythonライブラリとして実装されており、Pythonベースのプロジェクトにシームレスに統合できます。WhisperをPythonで利用するには、環境構築・依存ライブラリのインストール・各種関数の活用が必要です。

PythonでのWhisperセットアップ

Whisperを使う前に、Python・PyTorch・FFmpeg・Whisperライブラリをセットアップします。

必要なもの

  • Python:バージョン3.8~3.11推奨
  • PyTorch:Whisper実行に必須のディープラーニングフレームワーク
  • FFmpeg:音声・動画処理用のコマンドラインツール
  • Whisperライブラリ:OpenAI提供のPythonパッケージ

ステップ1:PythonとPyTorchのインストール

Pythonが未導入の場合は公式サイトからインストール。PyTorchはpipでインストールできます:

pip install torch

またはPyTorch公式サイトでOSやPythonバージョンに合った手順を確認してください。

ステップ2:FFmpegのインストール

Whisperでは音声処理のためFFmpegが必要です。OSごとにパッケージマネージャーでインストールします。

Ubuntu/Debian:

sudo apt update && sudo apt install ffmpeg

MacOS(Homebrew利用):

brew install ffmpeg

Windows(Chocolatey利用):

choco install ffmpeg

ステップ3:Whisperライブラリのインストール

pipでWhisper Pythonパッケージをインストールします:

pip install -U openai-whisper

最新版をGitHubリポジトリから直接インストールする場合:

pip install git+https://github.com/openai/whisper.git

Windowsユーザー向け注意

Developer Modeを有効にしてください:

  1. 設定を開く。
  2. プライバシーとセキュリティ > 開発者向けに移動。
  3. 開発者モードをオンにする。

利用可能なモデルと仕様

Whisperには、サイズや能力が異なる複数のモデルが用意されています。tinyからlargeまであり、速度と精度に差があります。

サイズパラメータ数英語専用モデル多言語モデル必要VRAM相対速度
tiny39Mtiny.entiny~1GB~32倍
base74Mbase.enbase~1GB~16倍
small244Msmall.ensmall~2GB~6倍
medium769Mmedium.enmedium~5GB~2倍
large1550MN/Alarge~10GB1倍

モデル選択のポイント

  • 英語専用モデル(.en):英語音声に最適化されており、英語のみの場合は高性能。
  • 多言語モデル:複数言語に対応、グローバル用途に最適。
  • モデルサイズ:大きいほど精度が高いが、計算資源も多く必要。用途とハードウェア要件に合わせて選択。

PythonでのWhisper利用方法

必要な環境が整ったら、PythonプロジェクトでWhisperを使い始められます。

ライブラリのインポートとモデルの読み込み

まずWhisperライブラリをインポートし、モデルをロードします。

import whisper

# 希望するモデルを読み込む
model = whisper.load_model("base")

用途に合わせて"base"を他のモデル名に変更可能です。

音声ファイルの書き起こし

Whisperのtranscribe関数で音声ファイルをテキスト化できます。

例:英語音声ファイルの書き起こし

# 音声ファイルを書き起こし
result = model.transcribe("path/to/english_audio.mp3")

# 書き起こし結果を表示
print(result["text"])

解説

  • model.transcribe():音声ファイルを解析し、書き起こしやメタデータを辞書で返します。
  • result["text"]:書き起こしテキストを取得。

音声の英語翻訳

Whisperは多言語音声を英語に翻訳できます。

例:スペイン語音声を英語に翻訳

# スペイン語音声を書き起こし・英語に翻訳
result = model.transcribe("path/to/spanish_audio.mp3", task="translate")

# 翻訳結果を表示
print(result["text"])

解説

  • task="translate":逐語書き起こしではなく、英語への翻訳を指定。

言語を指定して書き起こし

Whisperは自動で言語を検出できますが、明示的に指定すると精度や速度が向上します。

例:フランス語音声の書き起こし

# フランス語を指定して書き起こし
result = model.transcribe("path/to/french_audio.wav", language="fr")

# 書き起こし結果を表示
print(result["text"])

音声からの言語自動識別

Whisperはdetect_languageメソッドで音声内の言語を判別できます。

例:言語検出

# 音声ファイルを読み込み・前処理
audio = whisper.load_audio("path/to/unknown_language_audio.mp3")
audio = whisper.pad_or_trim(audio)

# log-Melスペクトログラムへ変換
mel = whisper.log_mel_spectrogram(audio).to(model.device)

# 言語を検出
_, probs = model.detect_language(mel)
language = max(probs, key=probs.get)

print(f"Detected language: {language}")

解説

  • whisper.load_audio():音声ファイルを読み込む。
  • whisper.pad_or_trim():モデル入力長に合わせて音声を調整。
  • whisper.log_mel_spectrogram():モデル用フォーマットに変換。
  • model.detect_language():各言語の確率を返し、最も確率の高い言語を検出。

高度な活用・カスタマイズ

書き起こし処理を詳細に制御したい場合は、低レベル関数やデコードオプションを利用できます。

decode関数の利用

decode関数では、言語・タスク・タイムスタンプ有無などを細かく指定可能です。

例:カスタムデコードオプション

# デコードオプションを設定
options = whisper.DecodingOptions(language="de", without_timestamps=True)

# 音声をデコード
result = whisper.decode(model, mel, options)

# 認識結果を表示
print(result.text)

ライブ音声入力の書き起こし

Whisperを使ってマイクからのライブ音声をリアルタイムで書き起こすことも可能です。

例:マイク入力の書き起こし

import whisper
import sounddevice as sd

# モデルをロード
model = whisper.load_model("base")

# マイクから音声を録音
duration = 5  # 秒数
fs = 16000    # サンプリングレート
print("Recording...")
audio = sd.rec(int(duration * fs), samplerate=fs, channels=1, dtype='float32')
sd.wait

よくある質問

OpenAI Whisperとは何ですか?

OpenAI Whisperは、OpenAIが開発した高度な自動音声認識(ASR)システムで、ディープラーニングを用いて話し言葉をテキストに書き起こします。99言語に対応し、書き起こし、翻訳、言語識別に優れています。

Whisperはどのように動作しますか?

Whisperはトランスフォーマー型のエンコーダ・デコーダ構造を採用し、音声をlog-Melスペクトログラムに変換して言語モデルでテキスト出力します。68万時間の多言語・マルチタスクデータで学習され、高精度かつ堅牢です。

Whisperの主な特徴は何ですか?

Whisperは多言語音声認識、音声翻訳、自動言語識別、アクセントやノイズへの強さ、カスタマイズや統合が可能なオープンソースといった特徴があります。

Whisperのハードウェア要件は?

ハードウェア要件はモデルサイズによって異なります。小型モデル('tiny'など)は約1GBのVRAM、大型モデルは約10GB必要です。WhisperはGPUで高速動作しますが、CPUでも動作可能です(処理時間は長くなります)。

WhisperはPythonプロジェクトに統合できますか?

はい、WhisperはPythonライブラリとして実装されており、pipでインストール可能です。音声書き起こしや翻訳、リアルタイム音声アプリへの統合が簡単に行えます。

Whisperの一般的な利用例は?

自動会議書き起こし、音声対応チャットボット、ライブ翻訳、アクセシビリティツール(字幕・支援技術)、コールセンター自動化、音声制御自動化システムなどで活用されています。

OpenAI Whisperの代替製品はありますか?

はい、Mozilla DeepSpeech、Kaldi、Wav2vecなどのオープンソースエンジンや、Google Cloud Speech-to-Text、Microsoft Azure AI Speech、AWS Transcribeなどの商用APIがあります。

Whisperはオープンソースですか?

はい、OpenAI Whisperはオープンソースで提供されており、開発者がカスタマイズやチューニング、独自プロダクトへの統合をライセンス制約なしで行えます。

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